忘れられぬ人。

友哉と友花は友達だった。
ただ、友哉にとって友花は特別だった。
友哉と友花、それに友弘と友範と友美の5人は同じ町で育った幼なじみで、毎日のように皆で集まって遊んでいた。
友花がいなくなる、あの日までは。
いつも一緒だった5人は、あの出来事以来全く会わなくなっていた。
10年経ったある日、友哉の前に友花が現れた。
5人の秘密基地があった森で消えるようにいなくなった6歳の友花が、自分と同じように歳を重ね、少し大人になった姿で目の前に立っている。
『友哉、一緒に遊ぼうよ。』
友哉は驚き、自分の目を疑った。
だが、そこにいるのは友花だった。
友哉にとって、あれからもずっと特別な存在だった友花だから、間違いなくそうだと確信できた。
友哉は文字通りに舞い上がり、突然思い付いたように勢い良く友花の手を引いて走り出した。
友哉は友弘の家に向かっていた。
そして友弘の家に着くと、昔みたいに大きな声で友弘の名前を呼んでいた。
しかし、何も反応がなく留守のようだったので、今度は友範の家に向かった。
その途中、偶然友美とすれ違ったのだが、ずっと会っていなかったせいか、全く気付いてもらえなかった。
いつも活発で人一倍明るかった友美は、その雰囲気こそ変わっていなかったが、何とも哀しい目をしていて、友哉は声を掛けることができなかった。
友範の家に着くと、ちょうど友範が慌てて家を飛び出してきた。
友哉は友範を呼び止めたのだが、相当急いでいる様子で、気付かずに走り去ってしまった。
また5人で会えると盛り上がっていた友哉はひどく残念がり、苛立ちすら感じていると、友花が優しく『仕方ないよ、2人で遊ぼう。私、久しぶりに友哉の家に行きたいな。』と言った。
友哉は、久々に会えたのに自分がこうしていては友花に悪いと思い、気持ちを切り替えて友花の提案を受け入れた。
友哉の家に向かう道中、2人は思い出話に夢中になっていたが、家が見えてくると、いつもと様子が明らかに違うことに友哉は気付いた。
親戚や近所の人たちが出入りしていて、近付いてみると、通夜の準備が粛々とされていた。
家の中には自分以外の家族全員と、ほかに何人か知った顔が並んでいて、そこにはさっき会いに行って会うことができなかった友弘と友範もいた。
友哉は呆然と立ち尽くしていた。
すると、その横を泣きながら友美が通り過ぎ、友弘と友範に優しく包まれて、さらに大きな声で泣いていた。
『…ごめんね。でも、また5人で集まれたね。』と友花が小さな声で言った。

そう書いて、結局自分が平凡だと気付いた小説家志望の男は、剃り落とした眉の上にスライスした椎茸を貼り付けている女と、行きつけの喫茶店で運命的な再会をした。
「ずっとあなたに会いたかった…。」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です