ファッション。

ファッションとは流行である。
今、最も流行しているのが天使の白い羽根。
道行く誰もが、背中に羽根をつけて歩いている。
この流行を誰よりも喜んだ少女がいた。
彼女の背中には本物の羽根が生えている。
真っ白な羽根が生えだしたのは彼女が中学に入った頃だった。
彼女はそれを誰にも打ち明けられなかった。
思春期が故の恥ずかしさもあるが、それ以上に他の人と違っていることへの怖さがあった。
それ以来およそ4年間、少しずつ成長していく羽根を切り落とすこともできず、隠し続けながら生活をしてきた。
しかし、この流行のおかげで堂々と羽根を広げて出歩くことができるようになった。
まさに羽を伸ばすことができる、そう思った矢先のことだった。
まだ不安のあった彼女は地元から離れた街に出向き、そこで自分の羽根を広げてみることにしたのだが、彼女の目の前を歩いていた子供が、持っていた風船を手放してしまい、空に舞い上がったのを見て、咄嗟に彼女は2メートルほど飛び上がり、風船の紐を掴んでいた。
彼女自身空を飛べるとは思っていなかったので驚いたが、当然周りにいた人達はもっと唖然としていた。
彼女はひとまず掴んだ風船を子供に返した。
すると、その子供が「ありがとう。おねぇちゃん、その羽根どこで買ったの?」と尋ねた。
「…最近はそんなもの売られているのか…?」というような空気が一瞬、周囲にいた大人達の間に流れたとき、即座に彼女は「ヨドバシカメラよ。」と答え、足早にそこを去った。
間一髪のところで、その場は回避できたが、この出来事はすぐに人の知るところとなった。
目撃していた人の1人がツイートし、フォローされ、Yahoo!ニュースになり、「ヨドバシカメラ 羽根」が検索された。
もちろん空を飛べる羽根などなかった。
空飛ぶ少女の噂は広まり、彼女を探し出そうとする人々。
それは明らかに好意的なものではなかった。
彼女は自分の身元が知られないかを怖れていた。
そんな時、若者に絶大な人気の女性アーティストが自身のブログで、この未知の空飛ぶ少女を擁護した。
自分と全く同じ人などいない、人はそれぞれ違っているのが当たり前だと。
いわば魔女狩りをするような雰囲気だった世間は、個性を尊重するムードに一変した。
すべてがファッション。
今、街にはヒョウ柄・ウサギ耳・ウマ面・ワシ鼻・ネコ背など、様々な人が溢れている。
もちろん羽根を広げた彼女の姿もそこにある。

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