地球人。

しばらく経って、彼は目を覚ました。
そして、驚いた様子で辺りを見渡した後、「もしかして、あなたは宇宙人ですか?」と聞いてきたので、私は笑ってしまった。
「宇宙人はあなたですよ。」
地球人がやってきたのは初めてだったが、私は以前から地球について研究していて、地球人の用いる言語には精通していたため、彼と会話することは容易だった。
ただ地球人は想像していたよりも肩幅があり、それにが付いている生物を見たことがなかったので、実際少しばかり私も驚いていた。
彼がどういう経緯で辿り着いたのかは私にも分からないが、彼は自分の置かれている状況が飲み込めていないようだったので、色々と説明してあげた。
まずここが地球ではないこと、この星を覆う大気中の成分や濃度、気温・気圧などは地球とほぼ同じだということ、彼に対して敵意をもっていないこと、彼が落っこちて来た場所は私が大事に手入れしている庭で、大好きな時代劇の再放送を見ていた時だったこと、その庭に大きな穴ができてしまったこと、それでも決して敵意はないことなど。
彼は不思議そうに私の話を聞き、しばらく黙っていたが、そっと口を開いた。
「随分と鼻声なんですね。」
私はショックだった。
鼻が無いのに鼻声と言われてしまった。
今まで生きてきて、鼻声だという自覚はもちろんなかったし、鼻声がどんなものかも知らなかった。
私が鼻声だった。
彼は続けて言った。
「独特のイントネーションですね。」
私はショックだった。語学力に関しては多少の自負もあったが、私は標準的な日本語を話せていなかった。
彼が言うには、私は西部地方の訛りがあるらしいのだ。
全く何を言っているのか分からないという程ではないと補足された。
そして彼は私に尋ねた。
「要するに何をおっしゃりたいのですか?」
私はショックだった。
良かれと思って丁寧に色々と説明したことが、回りくどい無駄話と捉えられた。
多少は心を許し、感謝してくれるなどと思っていたことが恥ずかしくなった。
ついさっきまでは、この星の住人である私が圧倒的優位な立場にあったはずだが、おそらく悪意はないであろう彼の言葉で形勢はすっかり逆転してしまった。
庭の損傷の件を今更持ち出すことは出来ず、とりあえず彼に温かいお茶を差し出した。
「あ、結構です。」そう彼が言ったので、警戒しているのかと思い、害を与える意図は全くないと説明すると、彼はボソッと呟いた。
「何か変な臭いがするので。」
ほんの少し理解に時間を要した。
鼻のない私は何も言えなかった。
研究者として私は彼の不時着を幸運に感じていたが、彼の記憶を消し、早々に地球に帰還させようと思った。
そして、はるかに高度な文明をもった我々が、もし地球侵略を計画したときには断固反対することを心に決めた。
今現在、地球は他の生命体からの明白な侵略や危害を受けるに至っていない。

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