怖そうな話。

その日、彼は遅刻した。
人身事故の影響で、電車のダイヤが大幅に乱れたせいだった。
幸い遅刻自体は特に問題とはならなかった。
いつも通りに仕事を終えた彼は、夜、帰りの電車に乗っていた。
満員電車ではなかったが、席は埋まり、彼は吊り革に掴まって立っていた。
いつもそんな感じだった。
彼の隣には女性が立っていた。
化粧気のない、色の白い、華奢な女性だった。
彼が窓の外を見ていると、ブルーシートが敷かれているところがあって、何かと思ったが、すぐに朝の人身事故のことを思い出した。
暗闇に浮かび上がる鮮やかな青が妙に気持ちが悪い感じがした。
そして、何気なく窓を見ると、外の暗闇のせいで半分鏡のようになった窓に、自分の姿はあったのだが、隣に立っている女性の姿がなかった。
彼はゆっくりと目だけを動かして、横を見ると、そこには確かに女性が立っていた。
まさかと思い、彼は目をぎゅっと閉じた。
すると、耳元で女性の声がした。
「気付きましたか?私…、鏡とかには映らないタイプなんです。」
しばらくして、彼は戸惑いながらも目をそっと開けてみると、その女性はもう隣にはいなかった。
ちょうど電車を降りるところで、携帯ゲームに集中しすぎて、前のおじさんにぶつかっていた。
彼は鏡に映らないタイプの人間に会うのは初めだったので嬉しかった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です