漫才台本。
A:あの最近ね、子供ができたときの名前を考えてるんやけど。
B:あーそうなんや。でも、ちょっと気が早くない?
A:そうかなぁ?
B:まだ結婚もしてないのに、子どもの名前って。
A:あれ、お前の名前「のぼる」やったっけ?
B:いや、違うけど。
A:順序とか気にして、妙にきちんとした感じが「のぼる」っぽいなぁ。お前、今日から「のぼる」にしたら?
B:なんでやねん。
A:なんや、その『なんでやねん』の言い方。全然「のぼる」らしくないやんけ。
B:いや、「のぼる」ちゃうから、俺。んで、「のぼる」らしいって何やの?
A:名前って、何かイメージがあるやん。性格とか、こういうことしそうとか。
B:例えば、どういうこと?
A:「たつや」やったら、ちょっとヤンチャな感じとか。「かずや」やったら、実直で負けず嫌いな感じとか。「こうたろう」やったら、人柄が良くて、友達思いっぽいとか。
B:あーそういうことね。まぁまぁ、なんとなくわかるわ。
A:せやろ。
B:でも、お前、その3人全員「タッチ」の登場人物やろ?
A:…。
B:不朽の名作から、さらっと拝借しやがって。バレへんと思うなよ。
A:のぼるー。
B:やかましいわ。
A:いや、イメージがね。名前とキャラクターがぴったりやから。
B:まぁ確かに、なんとなく合ってる気はするけど。
A:せやろ。てことは、名前を何にするかで、どういう人間になるかが変わってくる可能性があるわけや。
B:まぁ、名は体を表すっていうし。もしかしたら、多少は影響あるかもしれんね。
A:だから、早めにちゃんと自分の子供の名前を考えとこうと思って。
B:なるほどな。ちなみ、男の子、女の子、どっちで考えてんの?
A:男の子やな。息子が欲しいから。
B:あーそうなんや。どういう息子になってほしいとかあんの?
A:それは、めちゃくちゃ金持ちになって、お小遣いくれる息子やろ。
B:なんちゅう父親やねん。
A:ええやろ、別に。俺は自分で稼ぐことを諦めたんや。そんなに稼げそうな名前ちゃうからな。
B:いや、名前のせいにすんな。なんとか自分で稼ぐ方法考えろよ。
A:ちなみに、お前の名前は、もっと低所得者感あるからな。
B:やかましいわ!
A:だから、金持ちになる俺の息子の名前を考えて、お前も養ってもらえって。
B:なんでやねん。なんで、俺までお前の息子に世話にならなあかんねん。相当クズコンビやないか。
A:ええから、ええから、何かないか?ええ名前。
B:じゃあ、「としみち」とかは?なんか、しっかりしてて、頼りになる感じするし。
A:あぁ、老け顔やなぁ。早い段階でランドセルが似合わなくなるパターンやなぁ。
B:なんねん、それ。でも、なんやろ、ちょっとわかる気もするなぁ。
A:せやろ。
B:じゃあ、「せいいち」は?真面目に働く感じするやん。
A:いや、確かにコツコツ実績を積み上げていく感じするけど、大事なところで割と近い間柄の人間に出し抜かれて、全て失うわ。
B:おい、せいいち、何やってんねん!わきが甘いねん!
A:他にないか?
B:えっと、じゃあ、「こうさく」は?
A:お前、それは「島耕作」にひっぱられてるやんけ。
B:あ…。
A:成り上がっていくけど、めちゃくちゃ女たらし男になること想定した上で、息子にその名前つけられるか!
B:金もらうだけのクズ親父が、偉そうなこと言うな!
A:別のやつ、別のやつ。
B:じゃあ、「やすはる」は?優しそうな感じもするし。
A:あー、惜しいなぁ。練馬やな。
B:練馬?
A:練馬にやったら、そこそこのマイホーム持てる感じやな。
B:なんやねん、それ!もうええ、じゃあ、お前が思うええ名前はないんか?
A:一応あるよ、候補が。
B:あんのかいな。なんていう名前やねんな?
A:「ただなおまさやかおるじゅんのすけ」
B:長っ!なんやねん、その名前。
A:いや、だって一代で財をなすには、「ただなお」の風格と、「なおまさ」の安心感と、「まさや」の豪腕ぶりと、「かおる」の頭脳と、「じゅんのすけ」の愛嬌が必要やってんもん。
B:なんやそれ。なんぼなんでも、その名前はないやろ。
A: まぁ、そうやな。野球とかして、ユニフォーム作るときとか、背番号の周りを名前が一周するやろうしな。
B:いや、それは名字でええやろ。
A:車に轢かれそうになったときとか、「ただなおまさやじゅんのすけ、危ないっ!」って言わなあかんしな。
B:まぁ、「じゅん」の辺りで轢かれてるやろね。
A:まぁどっちにしろ、不便なことはいっぱいありそうやなぁ。仕方ない、金持ちになる名前をつけるのは諦めるか。
B:じゃあ、名前どうすんねん。
A:湯水のごとく金を使っても全く気にしませんみたいな金持ちと将来結婚できそうな名前を考えるわ。
B:余計複雑になってるやないか。もうええわ。