占い。

絶対に当たらないと言われている占い師に死相が出ていると言われた男が、自殺しようと試みた。しかし、と言うべきか、だから、と言うべきか、彼は生きている。ビルから飛び降りれば巨大な風船に阻まれ、川に身を投じれば勇敢な釣り人に救助され、睡眠薬を大量に飲めば長年悩まされていた偏頭痛が治るという始末。
そもそも彼が自殺を考えたのは、最愛の人を失い、その後を追おうとしたからだった。会社勤めをしていたときに過度なストレスから精神を患い、仕事を辞め、廃人のような生活をしていた彼にとって、偶然出会った天真爛漫な彼女は、大袈裟ではなく彼の全てだった。
占い好きだった彼女は、絶対に当たらないと密かに噂になっている占いをしてもらう為に、彼と一緒にお店に行き、その帰り道に事故に遭って命を落とした。その時、占い師に言われていたのは、彼に死相が出ていることや、彼女は晩年に成功すること、そして二人の相性が非常に良いことなどだった。
彼は自殺することもできず、生きる希望もなく、再びその占い師の元を訪ねた。
「僕のこと覚えていますか?」
「いえ、全然。」
「前回占って頂いたときに死相が出ていると言われたのですが。」
「へぇ~、そうですか。全然覚えていないです。」
「…あの、どうすれば長生きできますか?」
「じゃあ、改めて占ってみましょうか?」
「はい、お願いします。」
「…なるほど。次の元日、富士山頂上で御来光を浴びれば、道は開かれると出ています。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「はい…では、2万円頂戴します。」
「あの…前回は確か3千円だったのですが?」
「今日から値上げしました。」
「そうなんですか?」
「値上げしたら仕事がうまくいくって、占いで出たので。」
「…分かりました。」
先のない人生だから関係ないとお金を払った。彼はこの占い師の言うことを逆手にとることにした。つまり、この占い師の言う通りにすれば、早く死ぬことができると考えたのだ。
元日の富士登山に向け、彼は準備を始めた。体力のない彼は、登頂できるように3ヶ月間しっかりとトレーニングをした。彼女と出会う前、廃人のように暮らしていた彼は、摂生をしたり、体を鍛えたりすることとは無縁で、このトレーニングはかなり苦痛だったが、日に日に体調が良くなっていくのを感じていた。
12月31日、彼は富士山頂を目指し、登山を開始した。天候が悪く、その道のりは予想していたよりも厳しかった。しかし亡くなった彼女のことだけを思い、足を前に踏み出し続け、夜が明ける少し前にようやく山頂に辿り着いた彼は、今までに得たことのない達成感に包まれていた。「これで彼女のところに行ける。」日が昇り、彼は御来光を全身で浴びた。
それから何事もなく1週間が過ぎ、彼はもう1度あの占い師の元を訪ねた。しかし、そこに占い師はいなかった。3ヶ月前、値上げをした日から徐々に客足が遠くなっていき、年末に廃業したと、近くにあった喫茶店のマスターが彼に教えてくれた。絶対に当たらないと噂されていた占いが、ちょくちょく当たり始めたということだった。
彼は今、がむしゃらに生きている。

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