走れロメス。

絶対に間に合うはずがなかった。
それでもロメスは約束を果たそうと無我夢中で走った。
走って走って走った。
すると、奇跡が起きた。
その必死さが天に伝わったのか、なんと時が止まったのだ。
ロメス以外のありとあらゆる生物、森羅万象全てがその活動を停止した。
これで間に合う、身代わりになってくれた友の命を守ることができるとロメスは思い、とりあえず休憩した。
そしたら、なんとなく大丈夫そうな気がしたので、ロメスは寄り道をしてみた。
観光をし、温泉に入り、特産品を食べ、地酒も飲んだ。
それから、道や壁や人、目に入るもの全てに一個一個悪戯をしていった。
そして、そこそこ遊び飽きた頃、面倒だとは思ったが、ロメスはとりあえず友の待つ場所に向かって歩き出し、無事に辿り着いた。
が、時はまだ止まっている。
目的地に時間内に着いたのはいいが、その目的が止まってしまった。
ロメスは少し考えて、大きく1回手を叩いてみた。
何も変わらなかった。
パチンと指を鳴らしてみた。
何も変わらなかった。
ぐるっと回って、『スタートっ!』
何も変わらなかった。
ロメスは下唇を噛んで考えた。
時間が止まったのをいいことに、調子に乗りすぎてしまったことを少しばかり反省した後、どうするべきかを色々考えた。
このまま時間が止まったままでも別にいいかもしれないと思った。
何度かそう思った。
が、それは退屈だからやっぱり嫌だと思った。
『仕方ないか…。』
そう言って、最初に思いついてはいたが避けていた解決策に、ロメスは渋々取り掛かった。
来た道を戻り、悪戯した箇所を元通りにし、飲み食いした場所に代金を置いて回り、一礼してから、もう一度友の待つ場所に向かった。
ロメスが再び広場に着くと、ようやく時間が動き出した。
処刑台に縛りつけられた友である芹沼くんは、ロメスが念の為に剣とすり替えておいたクイックルワイパーを構えた兵士に囲まれていた。
ロメスは白々しい顔で王様の前に行き、身代わりになっている芹沼くんの処刑中止と自分の処刑を願い出た。
何も知らない王様は、ロメスに妙な芝居臭さと下半身に違和感を感じつつも、約束を守ったことに免じ、ロメスと芹沼の二人を解放した。
その後、ロメスは正直に芹沼くんに事の顛末と王様のズボンの股下を切り開いておいたことを話すと、思い切り殴られた。

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