ホラー。

「恨めしや~」
「…。」
「恨めしや~」
「うん。」
「恨めし…」
「もうええって。」
額から汗をかいている呪縛霊。想定外のことが起きた。通り掛かりの人間を驚かせようと思ったのだが…。
人「あのさぁ、どうやったら呪縛霊になれんの?」
霊「…。」
人「いや、俺さぁ、呪縛霊になりたいねん。で、ネットで調べてたんやけど、イマイチ分からんかって。本人に聞いた方が早いかなと思って来たんやけど。」
霊「…。」
人「えっ?無視?」
霊「…怖くないんですか?」
人「全然。」
霊「…。」
人「あっ、ゴメン。ショックやった?」
霊「いや、まぁ、はい…。」
人「霊でもショック受けるんやなぁ。知らんかったわ。」
霊「…。」
人「うわ、結構落ち込んでるやん。ゴメンな。いや、でも、あの、俺めっちゃ霊感強いねん。で、歩いてきたら、お前がさぁ…」
霊「お前?」
人「お前って言うか、いや、だって名前知らんから。」
霊「春田です。」
人「春田って言うんや。あんまり霊っぽくない名前やな。あ、俺は小柳。」
春田「…小柳さん。」
小柳「うん。でさぁ、歩いて来たら、春田が俺に気付いて木陰に隠れたやろ?」
春田「あ、はい。」
小柳「俺、めっちゃ霊感強いから、春田が俺に気付く前に、俺が春田に先に気付いてたんよ。だから…、正直全然驚かれへんし、むしろ隠れてる姿を見て若干引いてるというか…。」
春田「…。」
小柳「いや、でも、俺は特別やと思ってくれたらいいよ。普通は驚くと思うで。」
春田「…そうですか?」
小柳「うん、大丈夫やって。あぁ、でも『恨めしや~』は止めた方がいいんちゃう?古いというか、センス無いというか。」
春田「…。」
小柳「あ、ゴメン。俺、霊とかホラーとかめっちゃ好きで、色々観てきたから、何かちょっとベタなのが好きじゃないっていうか、あまり驚けなくなってて。」
春田「あぁ、そうなんですね。」
小柳「うん。でさぁ、そういう映画とか観て、呪縛霊になりたいと思ったから、今日ここに来たんやけど。どうなん?どうやったらなれんの?」
春田「いや、分からないです。」
小柳「えっ、分からんの?なんで?春田って呪縛霊やんな?」
春田「そうなんですけど、いつの間にか呪縛霊になってたんで。」
小柳「まさか世襲制とかちゃうよな?」
春田「いや、多分違うと思いますよ。親父まで生きてますし。」
小柳「うわ、ビビったー。世襲制やったら、俺、夢を1個奪われるとこやったわ。」
春田「…。」
小柳「春田はどうやって呪縛霊になったん?」
春田「単純に、半年前にこの道で事故に遭って、死んで、でって感じですけど。」
小柳「えー、あーそう。でも呪縛霊になれたってことは、何か天国行けへん理由があるからやろ?」
春田「んー、多分ですけど、その事故っていうのが轢き逃げなんですけど、100対0で相手が悪くて、しかも相手が誰なのか分からなくて、まだ捕まってないんですね。それで、死んでも死にきれないってことだと思うんです。推測ですけど。」
小柳「そうなんや、それで呪縛霊なれたんか。ラッキーやな。」
春田「別にラッキーじゃないですよ。なりたかった訳じゃないですから。」
小柳「あぁ、そうか。で、実際なってみて、どう?おもろい?」
春田「そんなに面白くはないですけど、とりあえず自分なりに呪縛霊として、どう生きていくか考えているところです。」
小柳「そうなんや。春田って真面目というか、ちゃんとしてるな。」
春田「そうですか?」
小柳「ちょっと嬉しそうやん。分かりやすっ。まぁ、でも、厳密に言うと『呪縛霊として生きる』はおかしいけどな。」
春田「…。」
小柳「ゴメンゴメン。すぐ凹むやん。気にし過ぎは良くないで。もっと図太くならんと。」
春田「そうですかね。」
小柳「絶対そうやって。で、呪縛霊って、ずっとここに居ないとアカンの?」
春田「そうみたいです。試してみたんですけど、どこも行けないんですよ。」
小柳「土日も?」
春田「はい。毎日です。」小柳「うわ、それはキツイわ。霊やから空飛べるし、行ったことないとこに旅行しようと思ってたんやけどなぁ。伊豆とか箱根とか。」
春田「残念ながら、無理ですよ。」
小柳「そっかぁ。呪縛霊なって、めっちゃ人間をビビらせて、有名な心霊スポットにしようと思ってたんやけどな。で、休みの日は旅行とかして遊べると思ってたんやけど。」
春田「休もうと思ったら、毎日休みにできますけど、結局何もすることないんです。だから、僕もとりあえず人を怖がらせなダメかなと思い始めたとこですけど、正直呪縛霊ってあまり良くないですよ。」
小柳「そうかぁ。じゃあ呪縛霊になるのやめとこかな。いや、実はもう1個別の夢あんねん。俺、芸人になるわ。
春田「あぁ、そうなんですね。」
小柳「春田、ありがとう、相談のってくれて。」
春田「いえいえ、僕は何もしてませんから。」
小柳「じゃあ、帰るわ。」春田「はい、さようなら。お気をつけて。」
小柳「うん。あ、そうそう、あと最後に言っとかんと。」
春田「何ですか?」
小柳「半年前、車で轢いてゴメンな。」

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