筋書いた別れ。

幸成は沙代子との別れることを決めた。

付き合って2ヶ月、出会ってからも半年と経っていない。大学に入って間もなく、クラスのほぼ全員が参加した親睦会で2人は出会った。
幸成は一浪して大学に入ったため、沙代子より1つ年上なのだが、周囲から見ると子どもっぽくて、頼りにならない印象がある。幸成自身は、そんな周囲からの評価を全く気にしておらず、沙代子が主導権を握っていることにもネガティブな感情はもっていない。一方、沙代子はそんな幸成をどう思っているかというと、やはり頼りないと感じることはあったが、幸成の匂いや声が好きで、それだけで十分満たされるほどだった。
そんな平凡という良好な関係の中で、幸成が沙代子に別れを切り出した。

トリトニアガールズという女性アイドルグループがいる。彼女たちは、一般的にはまだそれほど認知されてはいないが、男子学生なら少しは見聞きしたことがあるくらいのグループ。幸成自身は特に関心をもっていなかったが、彼女たちの熱狂的なファンの友人がいたため、多少は知っていた。そして、このトリトニアガールズの中に、幸成と同じ誕生日の女性がいることを知った幸成は、なんとなく親近感を覚えていた。

幸成と沙代子の通う大学の学園祭に、トリトニアガールズが来ることになったのだが、幸成は、学園祭の実行委員をしている友人に学園祭当日の手伝いを頼まれていた。

幸成「沙代ちゃん、俺と別れてくれない?」
沙代子「え、なんで?急にどうしたの?」
幸成「実は、ヤスに今度の学園祭の手伝いを頼まれたんだけど。沙代ちゃん、学園祭にトリトニアガールズが来るって知ってる?」
沙代子「知ってるけど、それが何なの?」
幸成「トリトニアガールズに、山口美幸って子がいるんだけど、オレと誕生日が同じみたいなんだよね。」
沙代子「だから?」
幸成「だから…まあ、だからというか、なんとなく、オレ、山口美幸と付き合うことになりそうな気がするんだよ。」
沙代子「えっ?」
幸成「偶然学園祭の手伝いをすることになって、誕生日が同じ山口美幸が来て、幸成と美幸ってのも、なんかアレだし、その山口美幸に出会うことになって、なんかそんな気がするんだよね。」
沙代子「ちょっと待って。ユッキーは、その山口美幸って人が好きなの?」
幸成「いや、好きかどうかは、まだわかんない。でも、山口美幸って、トリトニアガールズの中でも、すごい人気があるみたいで、ファンも多いらしいんだよね。」
沙代子「だから?」
幸成「だから、逆にあるかなって。だって、オレが山口美幸のファンだったら、それは絶対付き合うことにはならないけど、ファンじゃないのに、なんとなく近しい感じがしているときに、偶然出会うことになって、それで。」
沙代子「…。」
幸成「いや、オレが言いたいのは、そこじゃなくて。オレが山口美幸と付き合うことになったときに、沙代ちゃんがいたら、それは浮気でしょ?それって絶対ダメじゃん。オレ、そういうの嫌いなんだよ。沙代ちゃん、浮気ってどう思う?」
沙代子「浮気はダメだよ。」
幸成「でしょ。だから、ちゃんとしなきゃいけなくて、だから、別れなきゃって。」
沙代子「でも…。」
幸成「オレと山口美幸が付き合えるのかってことでしょ?」
沙代子「うん…。」
幸成「沙代ってね、すごい可愛いし、いい子だし、人気あるよね?」
沙代子「そんなことないよ…。」
幸成「いや、あるよ。クラスでも、沙代ちゃんのこと狙ってたヤツ知ってるもん。」
沙代子「…。」
幸成「そんな人気がある沙代ちゃんとオレが付き合うことになったのって、すごいことだと思ってるの。確率的にすごい低いことなんだよ。」
沙代子「そんな…。」
幸成「でね、沙代ちゃんは、オレと山口美幸が付き合う確率ってどのくらいかわかる?」
沙代子「…。」
幸成「わかんないよね。じゃあ、オレと沙代ちゃんが付き合う確率と、どっちが低い?」
沙代子「それは…。」
幸成「山口美幸と付き合うほうが低い?アイドルだから?そうなのかな?だって、沙代ちゃん、オレと付き合うと思ってた?」
沙代子「んー、最初は思ってなかったかも。」
幸成「そうだよね、オレも正直思ってなかったのね。大学に入るまで、会ったこともないし、沙代ちゃんって人のことを何にも知らなかったし。話すキッカケも特になくて、クラスの何人かがいる中に、オレと沙代ちゃんがいて、なんとなく話しているような状態から、付き合うことになったんだよ。これって、すごい確率じゃない?」
沙代子「うん…。」
幸成「でね、山口美幸でいうと、オレと誕生日が全く同じで、名前が似てるのね。で、今度の学園祭で、オレが控え室に案内するときには、確実に言葉を交わす機会があって、誕生日のこととかを話せるんだよ。だから、何のキッカケもなかった沙代ちゃんのときよりも、親しくなる可能性があって、付き合う確率も上がるのね。だから、沙代ちゃんと付き合うことになったオレが、山口美幸と付き合うことに絶対ならないとは言えないんだよ。」
沙代子「…。」
幸成「ごめんね、だから別れよ。」
沙代子「わかった…。」

1週間後、幸成の遺体が近くの海で発見された。
幸成は、不治の病を患っていたらしい。
遺書は見つかっていない。